カテゴリー:日本文化と笹
夏も近づき暑くなってきましたね。
今回はそんな暑さが少し涼しくなるような笹に関連する怪談をご紹介します。
背中にクマ笹を生やした一つ目一本足の「熊笹王(猪笹王)」という妖怪のお話しです……。
奈良県吉野郡の伯母ヶ峰に射場兵庫という猟師がいました。
狩りをしている最中、連れていた犬が吠えたかと思うと
目の前をクマ笹の藪が谷を滑るようにかけ下りて行きました。
追いかけてみると、背に笹を生やした大きな猪「熊笹王」がそこにはいました。
射場兵庫はこれを狩ろうと何度も打ち込みますが弾はなかなか当たりません。
ようやく足に命中しますが、あと少しというところで逃げられてしまいました。
その夜、紀州田辺の湯の峰温泉に奇妙な男が湯治に訪れました。
足を引きずった大男で、体からは獣臭い臭がしました。
男は「けっして部屋を覗くな」と言って貸し切った離れの座敷に入ったきり出てきませんでした。
不審に思った宿の主人がそっと部屋を覗くと、
座敷を埋め尽くすほどの背にクマ笹を生やした大きな猪が横たわっていました。
「みたな」
猪は目を見開くと宿の主人に言いました。
「命が惜しければ射場兵庫の鉄砲と犬を買ってこい。
足の傷が癒えたなら、わしの命を奪ったあの狩人を呪ってやろう」
大男は狩人に命を取られた熊笹王の亡霊だったのです。
宿の主人は震え上がり、村に言って鉄砲と犬を譲ってもらうように頼みますが、
中々話を聞いてもらえず、
つい熊笹王の正体について話してしまい呪い殺されてしまいました。
村人達が呪いを恐れて銃を隠してしまうと、熊笹王は怨念で一本足の鬼になり峠に出て、
旅人を取って食べるようになりました。
東熊野街道は廃道寸前に追い込まれ、村人が困っていると、そこに丹誠上人という僧侶が現れ、
熊笹王の亡霊を“日を限って祈願すると願いが叶えられる”といわれる
日限(ひぎり)地蔵菩薩に祈祷をして、封じてくれました。
その後、村に平和が訪れますが、
限られた日の12月20日(旧暦)だけは封印が解けてしまうため
山に近づくことを禁じられました。
今でも「果ての二十日」だけは伯母ヶ峰の厄日とされ
怖れられ戒めとして歌の形で残っています。
「果ての二十日に伯母ヶ峰を越すな。
越せば一本ダタラに生き血を吸われる」